・アノンフィル、(ニテンス)
古来、アノンフィルという国はそもそも存在せず。島国にはただ小数のエルフが住んで居ました。彼らは森と共に生き、必要最小限の農耕。あとは森の恵みを賢く利用して生きていました。
そこへニテンスとアノンフィルの元になる人々が流れてきて定着。当初かれらは同一民族でした。
彼らを導き、助け、やがてニテンス人はエルフのゆりかごを離れて自ら畑を開き……。
今から千年くらい前には、島国全土に人は広がりました。
その頃、島国は複数の民族に分裂していました。
中央、南東。中央の勢力が今のニテンス国の前身です。
南東の民族はエルフと融和、次第に彼らと同化していきます。アノンフィルの前身です。
彼我の勢力差は月日を重ねる内に開いていき、やがてニテンスによる侵略の時代が始まり、時のアノンフィル王は――彼はハーフエルフでしたが、降伏を申し入れました。
以来アノンフィル王は、王としてアノンフィルを纏めあげつつ、ニテンス王には公爵の一人として臣従することになります。
もとよりニテンスの文化、国家形態はアノンフィルを侵食しつつありましたが、敗戦と臣従によってそれは決定的になります。
富を求めてニテンスの地主、豪商がアノンフィルに入り込み暴利を貪り。
大規模農地を開いて、森を奪い。貧しくなった彼らを農奴にしていきます。
やがてニテンス人が大量に流入し、アノンフィルは半ばニテンスに同化してしまいました。
それでも純粋にエルフとして存在する者は、先住民のような形で小数残り。アノンフィルの数少ない誇りとして大切にされています。
例え侵略されようとも。従属しつつ、アノンフィルは民族の独自性を忘れてはいません。
ニテンスと共に戦場に立っても、心は国王と民に向けられています。
ゆえに、しばしば外国人にニテンス人、とひとくくりにされると怒ります。思わず手袋を投げ付けかねないくらいには。
・アノンフィル軍
軍制は、王直轄領は常備軍。
それ以外の諸公は小数の常備軍及び騎士、多数の半市民兵から成ります。
半市民兵といっても、アノンフィル人は毎日の日課に弓の教練を義務付けられ、半ば国家的スポーツとして楽しまれ、日曜日にはそこかしこで家族連れが――、
息子:「…ステンバーイ…ステンバーイ」
(ヒュカッ)
父:「ビューティフォー…」
とかやってる物騒な国なので連度は高いです。しかも弓兵なのでとってもリーズナブル!
市民兵の大半は、平時は半ば冒険者、アルバイタとして街の仕事で生活しています。
諸公は彼らに"半給"――戦時の半分の給与を与えて足しにします。
もっとも、そもそもの給与がスズメの涙程度なのでとってもリーズナブル!
……大事な事なので二度言いました。
それでも街の仕事と合わせれば、物価のやすいこの国では充分暮らせますし。
傷病兵は諸公が貴族の埃にかけて庇護します、もっとも、医療技術の低い時代なので負傷者より死者が多く、こちらはたいした負担ではありません。
問題は遺族保障ですが。
こちらは彼らに仕事を斡旋したり、城で雇ったり。あるいは、孤児の場合。教育機関――しばしば軍や教会。にて養育。
成長後は……と、ルシアンくんも殆どそのコースを辿ったのです。
アノンフィルは貧しいながら、王室含めみんなが長きにわたり貧しかったので相互扶助の伝統が成り立っています。
あまりに貧しく、またニテンスという共通の抑圧者、
(といっても元は同じ民族ですし、かつての記憶のあるエルフは彼らにまだ複雑な愛着をもっています。エルフを尊重するアノンフィル人はゆえにニテンスを全面的には憎めないのです。)
グロース帝国という大きな共通の敵もあって、きわめて内乱が少なかったのです。というか内乱する暇があれば耕さないと飢えるので(笑)
その苦難を互いに乗り越えて、今はそれなりに豊かな暮らしと文化を持つ彼らは。
精神的にタフで、戦闘技術も正規軍には劣るもののなかなか。なにより、反骨と皮肉の精神に溢れているため、一筋縄では行きません。
歴史上の指揮官達は包囲されても下世話なジョークで味方を鼓舞し、兵もそれを喜びました。
互いに絶望的な状況を乗り越える、そんな事をニテンスによる支配以来、日常的にやってきた彼らにとって、いちいち悲観してたら日が暮れますし。どうにもならないなら笑え。そんな風にジョークを好む気風が生まれたのです。
市民兵から一般にも広く浸透していきました。
今では国王も外交の場でうっかり際どいジョークを言いかけてしまうのだとか。
いずれにせよ、貧しくとも。
助け合いと逞しさでそれを乗り越え。
支配下にあってもジョークと皮肉で毎日を楽しく工夫する。
そんなタフな国民性を持つアノンフィル軍は、ニテンス軍も"それなり"に評価しています。
大陸への遠征時などは"アノンフィル高地連隊"などと冠して、危険な先頭をゆかせたりします……。
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